マネジメント・リーダーシップ誰だって変わることができる

自己評価が高いメンバーに向き合う

マネージャーになって私が厄介だと思ったことの一つに、こちらの評価とメンバーの自己評価に乖離があった場合です。メンバーの方が低い場合は問題ないのですが、逆の場合は評価面談の時にかなり揉めることもありました。

今ではかつての苦い経験を踏まえ、そのような事がないよう「日常」のやり取りの中でその乖離を埋められるように密にコミュニケーションを取っています。

しかし、ついつい面倒なことと「日常の必要なコミュニケーション」を避け、評価者面談の時に「決裂」しまい、自分の手を離れて二次評価者の手を煩わせてしまった、というご相談をよくお受けします。

基本はあくまでも「日常のコミュニケーション」です。これがしっかりとできていれば、日常の中でギャップは埋められているはずです。しかしそれが手遅れな場合でも、「お前は自己評価が高すぎるんだよ!」「〇〇はできてないじゃないか!」と頭ごなしに否定するのではなく、自らを省みてもらう関わりができるかもしれません。

以下は、自己評価が高い中堅社員の男性に上司の方がお手上げ状態となってしまい、ご相談を頂いたかつての事例です。

Aさん:自己評価が高い中堅社員(男性)38歳  B:私(コーチングのコーチとして関わりました)

 

B:Aさんは経理一筋15年と、この道のベテランですね。将来のキャリアをどんなふうに考えているのですか?

A:僕は経理のスペシャリストを目指したいと思っています。

B:経理のスペシャリストですか! それはすごいですね。具体的に何か考えているのですか?

A:一通り実務についてはできているので、公認会計士の資格を取って、企業内会計士のような存在になりたいと思っています。投資やM&Aなどのデューデリジェンスに関われるようになるといいですね。

B:それはすごいですね。Aさんは今の業務は一通りできているということですが、公認会計士を目指すとなると、どんなところを強化する必要があると考えていますか?

A:強化ではなく、更に知識を身につける必要があると思っています。

B:別の知識ですか?

A:そうです。別の知識です。今やっている経理業務は、ほぼできていますから。

B:なるほど、すると、Aさんの今の仕事は10点満点で言うと、既に10点に近いのですね?

A:なんか、意地悪な言い方ですね。10点満点だと・・・ 8点くらいでしょうか。でも、2点のマイナス分は私のせいではありません。仕方ないんです。うちの会社だと、誰がやっても2点はマイナスになると思います。

B:どういうことですか?良かったら教えてください。もしかしたら10点にするお手伝いができるかもしれません。

A:私はやるべきことをしっかりとしていますが、どうしても月次報告が遅れることがあります。私のせいではありません。でも、遅れてしまうのは歯がゆいです。

B:Aさんのマイナス2点分は、月次報告が予定通りできていないということですか?

A:そうです。だって、各部署からの数字が期日までに上がってこないんです。だから、いくら私がやろうと思ってもできないものはできない。だから月次が遅れるのは私のせいではありません。各部が期日通りに上げてくれたら予定通り僕は月次を出せます。

B:そうなんですか。いつも部門からの報告が遅いんですね。でも、もしこれが何とななれば、Aさんは10点取れるのですね?

A:はい。でも無理ですよ。何回言ったって、遅れる部署はいつも遅れるんですから。毎回催促するのも嫌になりました。

B:そうですよね。うるさがられて嫌ですよね。本当、経理って大変な部署ですよね。ところで、月次報告を早期に行うことは会社にどんなメリットがあるのですか?毎月5日ですよね?10日だと遅いのですか?

A:え? そんなこと考えたことないです。昔から月次の締めは5日と決まっているので・・・。

B:どうして10日ではなく5日なんでしょう。どうせ遅れるんなら10日にしてしまえばいいじゃないですか。なぜ5日を期限に会社は、代々の経理部長は定めているのでしょう?

A:そうですね。経理の仕事は会社の会計上の数字をはっきりと把握して、色々な施策や対策を打つために必要です。また、数字の動きから先を読み、今後の方針を決めていくためにも必要です。

B:なるほど。すごく重要なお仕事ですね。すると、月次が遅れるとどんな影響が予想されますか?

A:適時適切な対策が取れない恐れがあります。特に、今のような経済環境だと、直近の数字をしっかりと把握しておくことは将来にとってもとても重要です。ですから、月次の早期化は必須であり、10日ではなく5日を目指すのはもっともなんです。

B:そうなんですね。会社の将来をも左右するんですね。それなのに、各部署からはどうして数字は出てこないんでしょうか。

A:みんな忙しくて、いちいち経理に報告する数字をまとめるのが面倒なんだと思います。

B:え?だって、経理に報告って?

A:みんな、経理に報告する数字だと思っているんです。多分。会社にとって重要な経営判断をするための大切なレポートの基となる数字なのに、みんな、そんな意識はないんだと思います。

B:そうなんですね。他部署の皆さは、そんなに大切な数字だと思っていないんですね。それは寂しいですね。ただ、経理に報告するためだけに毎月急かされていると思っているのかもしれないですね。

A:みんな、多分、知らないんだ・・・

B:もし、毎月の経理への報告が単なる数字報告ではなく、経営判断のための大切な指標になる重要な報告なのだと、各部署の皆さんがしっかりと理解してくれるとどうでしょうか?

A:そうですね。そうしたら、もう少し協力的になってくれるかな。

B:そうかもしれませんね。そうなるとすごいことですよね。ところで、経理の仕事はどこまでが経理の仕事なんですか? Aさんが目指している公認会計士の仕事はどうでしょうか?

A:・・・・・。公認会計士の仕事は月次早期化のために様々なアクションを取ることも含まれています。ただ数字をまとめるだけが仕事ではありません。会社全体が数字の意識が高くなるように何か手立てを考えるのも仕事です。それは、会計士の仕事でもありますが、経理の仕事でもあります・・・。

B:そうなんですね。とても奥が深いのですね。

A:お恥ずかしいのですが、先ほどの8点ですが、6点に変更します。

B:どうしてですか?

A:自分のことしか考えておらず、経理本来の仕事の目的を忘れていたというか、それを意識して行っていなかったことに気がつきました。自分勝手だったというか。経理の仕事は会社の根幹を支えているんです。だとしたら、自分の責任ではないから仕方ない、とか言ってる場合ではなく、どうしたら業務が円滑に進むか、どうしたらもっと分析しやすい会計資料を作れるかなど、やるべきことはもっとあるんだと思います。そして、そういうことが会計士の仕事なんだと思います。

B:Aさん、すごいですね。そんな風に考えることができるなんて!目の前の仕事に追われるのではなく、仕事本来の目的を忘れずに突き進む。難しいけれどもやりがいのある、素晴らしいことですよね。是非、会計士を目指してくださいね。応援しています!

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